学校の窓ガラスが割れるというのは、生徒にとってちょっとした一大イベントだった。どこどこのクラスの誰それが割ったようだとか、そのあと誰がチクッて、どこでつかまって、誰に怒られただとか、怪我人が出たとか出ないとか、とにかくひとたびどこかの窓ガラスが割れようものならクラスはしばらくその話題で持ち切りになったものだった。乱暴者の生徒が暴れて割ったり、いたずら好きの生徒が悪ふざけしすぎて何かをぶつけたり、とにかく学校の窓ガラスはよく割れていたように思う。

しかしわたしが大人になって、何の因果か先生になって最初に赴任した学校では、窓ガラスが割れることはなかった。自分が学生のころに通っていた学校は、お世辞にも素行の良い生徒ばかりだったとは思わないが、それでも今わたしが赴任している学校も、それなりのやつらがそれなりの人数いるし、喧嘩やもめごとだったちょくちょく起きている。何より昔はゲンコツで黙らせ、言うことを聞かせられた先生も、今は教育委員会からの厳しい指導のもと、生徒に手を出すことは一切まかり通らなくなってしまった。
(参考:どうしても交換したくないガラスがある

当然、増長する生徒は出てくるものだ。こちらが手出しできないと知っていて、わざと挑発的な行動を取るのだ。エスカレートすると暴れだすというわけだが、それでも窓が割れるのを見たことはない。
もめごとだけではない。部活動の盛んな学校では、野球のボールやテニスボールなどが間違って窓ガラスを直撃し割れるという事故が良く起きる。学校側はフェンスやネットを設けるのだが、それでも事故は起きるのだが、それもこの学校では見かけない。
これはどうやら窓ガラスの種類が違うのかもと気が付いたのは、サッカー部の練習でシュートしたボールが窓に直撃しても割れなかったときだ。学生時代の典型的なトラブルである窓ガラスの破損事故は、現代の窓ガラス製造技術の向上による強度強化によって、格段に少なくなっているのかもしれない。